3回以上読んだ文庫本を紹介

3回以上読んで本棚に残した(売らなかった)上に、自炊して電子書籍化し、さらにもう1度電子データで読んだ文庫本を紹介します。

幸田文ー台所の音

第3冊目の紹介は、いよいよ幸田文の「台所の音」です。
幸田文初心者の方、幸田文の他の本は読んだことがない方、大変お奨めです。

なぜなら、幸田文の短編小説がたくさんつまった、本当に捨て所のない短編集だからです。
繰り返し読む度に、そのときどきの自分の感情でいいと思うところが違う、別の言葉で言えば、良さが再発見できる短編集といっていいでしょう。

台所の音

最初に読んだとき、私は「台所の音」に魅かれました。
短編集のタイトルともなっているこの作品は、非常に細やかな観察をもとにして夫婦の日常のやりとりが音で描かれています。

お互いに何度目かの妻であり夫である関係の夫婦。病気の夫は寝ていますが、そのとき楽しみにしているのが妻が台所で立てる音なのです。
夫が治らないと知った妻はなんとかその音を華やかにしたいと思うのですが・・・

呼ばれる

目が悪くなっていつか見えなくなってしまうという恐怖が私にはあります。だから、この作品はとても感慨深いのです。
病気の発見が遅れて、手術をしたけれど失明してしまう主人公。彼があるとき縁側に座っていると、どこかから呼ばれます。そのとき初めて、本当の意味で呼ばれた気がしたそうです。本当に人を呼ぶ、その人に呼びかけることの意味を考えさせられます。

雪持ち

結婚したばかりの妻と妻が知らない昔に夫とやりとりがあった女性。二人が行き違う様を通して、あのときだったのか、と振り返りが光ります。

食欲

病人を看病したことがある人はぜひ読んで欲しいです。
渇きとはなんなのか、手料理は実は贅沢なものなんだ、そういう気持ちをぎりぎりとお腹の中に書きつけてもらいたいです。



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