3回以上読んだ文庫本を紹介

3回以上読んで本棚に残した(売らなかった)上に、自炊して電子書籍化し、さらにもう1度電子データで読んだ文庫本を紹介します。

三島由紀夫ー金閣寺

第137冊目も、日本文学の名作、三島由紀夫の「金閣寺」を紹介します。
金閣寺 (新潮文庫)
金閣寺 (新潮文庫)

ちょっと表紙のイラストが変わって、燃え上がる感じになりましたね。私が購入したときは、白地にオレンジ色で大きく題名と著者名が書いてあるという形式でした。


さて、この本は金閣寺への放火事件を題材にしたオリジナルストーリーの小説です。金閣寺の放火事件は実際にあったことですが、小説自体はフィクションになっています。

主人公と金閣寺をつないでいるのは父です。父が美しいと教えてくれた金閣寺、父の死後、主人公は金閣寺で徒弟になり、住職の修行をします。

父との美化された想い出とは対照的に、ある事件があって、主人公は母を許していません。母は現実的であり、父の死後、お寺を処分してしまい、主人公に金閣寺の跡取りになるよう促します。結局、すべてのストーリーは金閣に向かってつむがれていくのでした。

さて、金閣寺を読んでいるといくつか気になるエピソードが出てきます。

1つ目は女の裸です。友人鶴川とのやりとりの後、主人公は南禅寺で女を見ます。この後、女の腹を踏む事件、童貞喪失と続きます。

2つ目は、「南泉斬猫」という禅の考案のエピソードです。

「あの考案はね、あれは人の一生に、いろんな風に形を変えて、何度もあらわれるものなんだ。あれは気味の悪い考案だよ。」

そして、最後は、物語の後半で、亡くなった父の代わりとして会いに行く禅海和尚との会話が象徴的です。

「人の見ている私と、私の考えている私と、どちらが持続しているのでしょうか」
「どちらもすぐ途絶えるのじゃ。むりやり思い込んで持続させても、いつかは又途絶えるのじゃ。汽車が走っているあいだ、乗客は止まっておる。汽車が止ると、乗客はそこから歩きださねばならん。走るのも途絶え、休息も途絶える。死は最後の休息じゃそうなが、それだとて、いつまで続くか知れたものではない」

この後、私を見抜いてください、と主人公は言うのですが、和尚はからからと笑い、見抜く必要はない、みんなお前の面上にあらわれておる、と答えるのです。それを聞いて、主人公は自分を理解してもらったと感じ、安堵するのです。

主人公にとっての金閣の意味が変わり続けたように、人にとってのよりどころは変わり続けるものなのでしょうか。
真夏の眠れない夜の読書におすすめします。