3回以上読んだ文庫本を紹介

3回以上読んで本棚に残した(売らなかった)上に、自炊して電子書籍化し、さらにもう1度電子データで読んだ文庫本を紹介します。

福永令三ークレヨン王国まほうの夏

第121冊目は、ミステリー路線の一冊「クレヨン王国まほうの夏」を紹介します。

夏のキャンプというか林間学校に来た小学6年生たち。この本では珍しく男の子の清太と女の子の麻美というダブル主人公です。

あらすじは清太と麻美がクレヨン王国からきた水色の何かわからないもの(赤ちゃん、水太)を拾ってしまい、親になって成長を助け、巣立つまでを見守るというストーリーです。

水太が歌う「らしさ、らしさ、僕のらしさは何らしさ」という歌が好きです。
らしさ、らしさ
ぼくのらしさは、なにらしさ
ほんとのぼくは、なんだろう
おしえてください、お母さん
早くなりたい、ほんとのぼく
早く知りたい、ほんとのぼく
らしさ、らしさ
おしえてください、お父さん

水太を育てることについて、親になったことないから不安だという二人に対して、赤クレヨンはきっぱり「だれだって、はじめから親だったものはない」と言い放ちます。それはそうですね。

さて、水太を育てることの軸に絡んでくるもう一つの軸が誘拐事件です。
「クレヨン王国からきたおよめさん」では、ミステリーといっても単純に家出した友達を探すくらいのものでした。ところが、「クレヨン王国まほうの夏」になると誘拐事件という犯罪になります。そして、「クレヨン王国黒の銀行」ともなれば強盗が出てくるのです。このあたり、ちょっと好き好きがあるかな、と思います。

犯人のと対決、水太が何になるのか最後までわからなくてハラハラしながら読める一冊です。好きな女の子ができた男の子におすすめします。



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福永令三ークレヨン王国からきたおよめさん

第120冊目は、後のユーモア路線&食べ物おいしそう路線&ミステリー仕立て路線につながる一冊「クレヨン王国からきたおよめさん」を紹介します。

この本から、これまでのヘビーな(自然保護か開発か)路線からちょっとユーモア路線に変わります。そして、食べ物がおいしそう!という描写が加わります。

初めて読んだとき、なぐり電車に私も乗りたいと思いました。
「ブルーサンセット」というパフェがとてもおいしそうだったからです。

主人公は小学校6年生の亜有子ですが、なぐり電車に乗ったことがきっかけで高校生の夏江子と友達になるのです。それを亜有子は「素敵なお姉さんと友達になれたのが嬉しい」としていますが、私もこんなお姉さんが欲しかったなーと思ったものです。

さて、およめさんですが、題名の通りクレヨン王国から来るのです。クレヨン王国側からすれば刑罰のような感じです。アニメによくある設定「魔法使いが何か違反をして、その罰として人間界で○年を過ごす」をイメージすれば間違いありません。この本の場合、およめさんは短期で1か月です。

およめさんには種類があって、勉強がよくできたり、スポーツ万能だったり、よく笑ったり(ケケケ型とホホホ型があります)するのです。私も勉強のおよめさんが欲しかったなー

で、およめさんは自分の頭の中に来るんです。会話もできます。亜有子とそのおよめさん、夏江子とそのおよめさんの4人で話す4者会談の場面が面白かったです。

さて、およめさんとの生活ですが、およめさんに遠慮しているうちに亜有子はどんどん自分をのっとられていることに気づきます。

引用「亜有子が、亜有子でいるためには、やっぱり努力しなければいけないんだ。そうでないと、自分でないものに、ぶんどられていってしまうんだ。」

これって大事なことですよね。およめさんと直接対決することで、亜有子もおよめさんも変わっていきます。痛みを伴う成長です。

物語はおよめさんとの関係だけではなく、ちょっとミステリー仕立てになっていますので、そちらも楽しめると思います。



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福永令三ークレヨン王国月のたまごシリーズ後編

今回は、クレヨン王国月のたまごシリーズの読み方 前編に引き続いて、後編をご紹介します。

ものすごく例外的で申し訳ないのですが、私はこの読み方はおすすめしません。その理由ですが・・・

まず作者は月のたまごの続編を書くにあたって、次のようなことを決めていたそうです。

1.まゆみと三郎の帰国
2.ヌラリン中佐の生還
3.ストンストンの結婚
4.アラエッサの結婚

どうですか? 人間界に行ったまゆみと三郎がクレヨン王国に戻ってくる1はよいとして、2,3,4は趣味が分かれるところでしょう。

カメレオン首相がヌラリン中佐を結果的に殺してしまったことをいくら悔いているとはいえ、生きているに頑張ってするとは無理がありすぎです。

そして、3と4の結婚。それは大団円ではありましょうが、結婚の必然性は私はないと思います。

私は何年振りかに心待ちにして、この月のたまごシリーズの発刊と同時に買い足していきました。そして、読んでがっかりしたのです。これは想い出補正が強すぎるせいだと思い、改めて読み直しましたが、その度にがっかりしました。そして、8巻までだったら、きれいな思い出として月のたまごシリーズをとっておけたのに、何で自分はこれを読んでしまったのだろうと悔やむようになりました。そして、本が本棚に並んでいるのを見るのも嫌になって(ちょうどその本棚がいっぱいになったこともあって)4冊とも売ってしまいました。

なので、これから読まれる方は(好奇心旺盛だと思いますので)、どうかがっかりするかもしれないことを覚悟してどうぞ、としか言えません。

四土神は、起承転結の起として書かれたそうです。アラエッサとストンストンは結婚してもよい男になるように試練を与えたとか・・・

続く、道草物語と幾山河を越えて、ですが、作者はストンストンを結婚させるために道草物語を、アラエッサを結婚させるために幾山河を書いたそうです。

そして、月のたまご、ついに完結編です。
まゆみと三郎の間には子どもが生まれています。まゆみ、三郎、ストンストン、アラエッサから1文字ずつとった名前がついていて、ずいぶん変な名前だったので、それも私はショックでした。他にもショックなシーンがいくつかあったような気がしますが、記憶を消してしまったのでわかりません。

私の中のクレヨン王国月のたまごはPART8で終わっています。残り4巻を読まれる方の幸福を祈ります。



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福永令三ークレヨン王国月のたまごシリーズ前編

第113冊目〜119冊目ですが、クレヨン王国月のたまごシリーズのPART2からPART8までをまとめて紹介します。
クレヨン王国月のたまごPART1にて紹介しましたが、月のたまごシリーズは3通りの楽しみ方ができると私は考えています。

★一冊目だけ
1つ目は、PART1だけ読む方法です。PART1だけでも完結しているのでこれはこれで楽しめます。

★前半シリーズまで
もう1つは、PART2〜PART8までの前半シリーズを読んで楽しむ方法です。私はこちらをおすすめします。なぜかというと、この前半シリーズで主人公まゆみのライバル「ダマーニナ」が登場します。美しく勝気な女性のダマーニナとの恋物語は読みごたえがあります。それから、月のたまご救出作戦で活躍したナルマニマニ博士やカメレオン首相のその後が読めます。

★完結編まで
最後の1つは、四土神〜完結編までの後半シリーズを読んで楽しむ方法です。私はこちらはあまりおすすめしませんが、その理由は別途書くことにします。

さあ、PART2〜PART8一気に紹介です!

PART2は、クレヨン王国の記憶をなくしたまゆみが記憶を取り戻して、クレヨン王国の入口に立ち、ストンストンとアラエッサに再会するまでを描きます。

PART2での読みどころは、まゆみの詩だと思います。三郎さんのことを忘れているまゆみですが、大切なものをなくした感じは強く持っていて、恋する誰かさんとして詩を書き続けています。

「クラクション クラクション わたしのクラクション
ふりむいてくれなければ 我が道(マイウェイ)が見えない」

一方、三郎は不思議な美女ダマーニナに助けられてカヤーナの火山地帯を抜けます。

作者は3冊になるか4冊になるか、わからないまま続きを書きだしましたので、このPART2ではひとまず月のたまご探検隊の再会部分までを書いたという感じですね。

さて、再会して見つめ合う二人。愛でいっぱいの二人ですが、最初の困難が襲いかかります。なんと、青黒い水をたくさん飲んだために三郎は病気になってしまいます。必死で介抱するまゆみですが・・・

一方、ダマーニナはたまごのお守り役を解かれたので、これから人生を楽しむことにして、たくさん食べたり、お城を買ったりしています。けれども三郎さんが隣にいないのが悔しいし、憎らしいのでした。そして、三郎がいつも呼びかけていた「まゆみ」という少女に嫉妬します。

PART3の最後で、まゆみに次の試練が襲いかかります。ハラハラドキドキの展開です。

PART4では、まゆみの帰りが遅いのを心配した三郎がまゆみ救出のために旅立ちます。

PART5では、三郎とまゆみそれぞれの動きが描かれます。

三郎は直感を信じてカメレオン元首相を救出します。しかし、ヘリコプターのトラブルもあって、なかなかまゆみに出会えません。ここでネタバレとなりますが、カメレオン元首相はとっさの罠を見破ったためにある軍人を犠牲にしてしまいます。このシーンが作者にトラウマとなって、後の後半シリーズが生まれるのです。

まゆみは、白馬のピーターと街に行き、尼僧のオルガに出会います。自分の彫像をみて、思わず自分も同じポーズをとり、三郎が生きていることを口にします。オルガはこれは本当のことだと直感し、自分の身を挺してみなに伝えようとします。

PART6では、青黒い水から広がった奇病「青ころり」にまゆみが立ち向かう姿が読みどころです。

ダマーニナは三郎から奪った指輪をもとに、皇室との関係を主張しますが・・・後のシリーズでも時々登場する変人キラップ女史が登場する作品です。

PART7は、PART8の大団円の前のどたばた回です。アラエッサとストンストンの珍道中が読みどころです。

まゆみはダマーニナに捉えられ、ピンチといえばピンチです。

さあ、PART8です。表紙が象徴するようにハッピーエンドなので安心してお読みください。

このPART8の読みどころはハッピーエンドはもちろんですが、ダマーニナとまゆみとの和解です。ダマーニナに片思いだったタナムシ教授もそのひたむきさがダマーニナの心を動かし、少しだけむくわれます。

この作品で終われば名作だったと思っているのは私だけではないはず。

では、次回シリーズ後編に続きます。



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福永令三ークレヨン王国月のたまご

第112冊目は、後の大長編につながる一冊「クレヨン王国月のたまご」を紹介します。

もともと、「クレヨン王国月のたまご」は1冊のみで完結する予定で書かれた本でした。出版後、読者から続編を熱望する手紙が届いたことにより、PART2、3と続編がかかれることになったのです。

PART8で一旦終わりましたが、福永さんが気になっていた案件があり(後述)、四土神、道草物語、幾山河を越えて、完結編が追加で書かれ、実際には全12冊で完結ということになっています。

なので、青い鳥文庫もわかりやすくするため、版を重ねたときに、第一部となる本作に PART1 をつけたのだと思われます。

前置きが長くなりました。
本作品は、6年生のまゆみが私立中学受験に失敗し、お先真っ暗、茫然自失になって、ふらふらとクレヨン王国に迷い込むところからスタートします。

まゆみの心を癒す物語でもありながら、恋でもあり、成長の物語でもあります。まゆみの成長を最も実感できるのは、両親について恋人に客観的に語るシーン、そして、エンディングで両親についての理解を変えたと行動で思わせるシーンです。ぜひエンディングを読んで欲しいです。

さて、歴史的にはもう一つ重要なことがあります。それは、鶏のアラエッサと豚のストンストンという名脇役が本作で誕生していることです。東海道中膝栗毛弥次さん喜多さんのように滑稽なやりとりをして、旅や物語を楽しくしてくれるコンビです。

主人公のまゆみも、アラエッサやストンストンも詩を読んだり、歌を歌ったりしますが、これらは伊勢物語のように物語にメリハリをつけてくれます。

この第1作目を読んでみて、気に入ったら続編を読むのがよいのではないでしょうか。もともと1冊で完結するつもりの作品だったので、これ1冊でやめたとしても大丈夫ですし。



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電子書籍と紙の本:体験の違い(読書編)

電子書籍と紙の本の両方を読んでいると、読書体験の違いにときどきはっとします。外観編に引き続き、忘れないようにここにメモしておこうと思います。

電子書籍は暗いところでも読めるのです。タブレットそのものが光るからです。家族が寝静まってから、眠れないときの読書がとっても助かります。目を悪くしないか心配ではありますが、部屋を暗くしていても難なく読めます。

白黒を反転させて、文字を白にして浮かび上がるようにし、新読書体験を楽しむ人もいらっしゃるようです。

電子書籍と紙の本の違いは、外観の違いや読書体験だけでなく、本の価値にも及んでいます。

自炊をしていると、紙の本の装丁やしおりや見返しといった様々な工夫を目にします。そして、分解してそれらの工夫がいかにすごいものであったかを実感するのです。

紙の本は中身だけでなく本自体にも、つまり入れ物にも価値があるんだと思います。これが紙の本を高くても買う理由につながっていると思います。

一方、電子書籍はどうでしょう。実は、今のところ、私が買った電子書籍はある出版社のものを除いて、中身が入っているだけであり、入れ物に工夫が凝らされていませんでした。だから、紙の本と同額払うことに抵抗があります。

紙の本は煮ようが焼こうが自分のものですが、電子書籍がダウンロード権というのも同じ値段で手に入れるのをためらう理由です。それだけ所有権に関して、価値が低下している気がするからです。

電子書籍には、中身を入れる入れ物としての可能性がもっとありそうに思っています。ただ文章を電子化して入れて表紙が一枚しかないものを売るのなら、もっと安くして欲しいです。

私が自炊した本を結構満足して読み続けられているのは、紙の本の優れたフォーマットを受け継いで電子化しているからです。全部ではないけれど、いくつかの本には美しい見返しがあり、イラストがあり、裏表紙に簡潔なあらすじや解説があります。電子書籍に足りないものがそこにはあるように思います。

福永令三ークレヨン王国なみだ物語

第111冊目は、泣けること間違いなしの短編集「クレヨン王国なみだ物語」を紹介します。

クレヨン王国シリーズ第7作目のこの作品、お日様の7つのなみだがクレヨン王国に届いて、それぞれお話になったという7づくしの作品です。

7つのお話ですが、どれもいいです。読み返す前もどれも記憶にしっかり残っていました。

私が一番好きなのは「植木ばちのなみだ」。さとる君が自分の名前をちとると書いてしまったことから、ちとるという名前の植木鉢の話です。植物と鉢との関係を軸に、飽きっぽい人間のこともちくりとさしていて、じわっときます。

子どもの頃、教科書に落書きしたり、遊ばなくなった人形を捨てたりしませんでしたか?「算数の本のなみだ」や「人形のなみだ」はそんな思い出を掘り起こしてくれるでしょう。

いかにも福永さんだなあと思う短編は「カタツムリのなみだ」。あんまりいいとこはないですね、と歌いながら引っ越しするカタツムリのノタムタ君が主人公です。次々と咲く朝顔の美しさにすっかりまいってプロポーズするのですが・・・

同じ恋愛ものでもちょっと違う「赤信号のなみだ」。自分の地位も職務もなげうっての恋に心打たれます。

泣きたいときにおすすめの一冊です。



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