3回以上読んだ文庫本を紹介

3回以上読んで本棚に残した(売らなかった)上に、自炊して電子書籍化し、さらにもう1度電子データで読んだ文庫本を紹介します。

福永令三ークレヨン王国の十二か月

第105冊目は、福永令三の記念すべきシリーズ第一作「クレヨン王国の十二か月」を紹介します。

この本は、作家になりたくて原稿を書きためていた福永さんが新人賞に応募し、新人賞をとって単行本出版、その後、青い鳥文庫におさめられたという作品です。

小学校2年生のユカがクレヨン王国という不思議な国に迷い込んで旅をする王道ファンタジーです。物語の基本である「行って帰る」を忠実に守っています。行って帰ってくる間に主人公や主人公の周りの人達も成長するのです。

物語の冒頭も素敵です。おおみそかの夜に十二色のクレヨンを枕元に置いて眠っていたユカが話し声に目を覚ますと、クレヨンたちが相談しあっていたのです。

このクレヨンを枕元に置いて眠ると、クレヨンたちが夢に出てくるというモチーフはシリーズで何回も出てきます。その最初がこの本というわけです。

クレヨン王国は私たちの世界のすぐそばにある別の世界。ファンタジーの世界です。そこではとても色が美しく、自然が大切にされています。この童話は環境童話でもあるのです。でも、この本やシリーズが素晴らしいところは、自然VS人間という単純な構図にしていないところです。大臣たちも、人間を助けてやるべきかどうか、いいところ、悪いところ、両方を挙げて、意見が真っ二つなのです。これは本作以降の作品にも受け継がれています。

さらに、この童話のよいところは説教くさくなく楽しめるところです。十二も困った癖のあるシルバー王妃からゴールデン王様は逃げ出してしまいました。まあ、単なる夫婦喧嘩ですね。ところが、王様がいなくなると世界は色を失ってしまって大変だから、なんとか連れ戻さなくては、と十二色の町々を旅する物語です。十二の癖をクレヨン大臣たちが読み上げるとき、あ、私にも思い当たるなー、耳が痛いなーとユカは思うのです。

特徴的なのは、十二色のクレヨン大臣、十二の町、十二か月の旅と12の数字がキーになっているところでしょう。作者は日本語の漢字、ひらがな、カタカナ、数字を全部タイトルに入れたいと思っていたらしく、本当は十二か月の十二も12と算用数字にしたかったのだとか。

私はこの本を小学校四年生のときに読みました。クリスマスプレゼントにねだって親に買ってもらったのです。なんとこの本を知ったのは新聞広告で、でした。今では考えられませんが、新聞広告の本の宣伝を切り抜いて、蛍光ペンで線を引いて、買うまで大事に持っていたのです。

小学生の私でも、大人になった私でも、とても面白く読めました。ファンタジーの好きな人に特にお奨めです。それから、クレヨン王国シリーズはとてもたくさん冊数がありますので、どれから読んでいいかわからないという人にも、この第一作がおすすめです。

今では、新装版も出て手に入りやすくなりました。私は昔の絵の方に思い入れがありますが、これも時代の流れでしょう。

追記:なんと電子書籍版も出ていました。青い鳥文庫からパブリに飛んで「クレヨン王国」で検索すると・・・検索結果初期の名作と月のたまごPART8まで出ている!これはすごい!

青い鳥文庫にはいろいろとお世話になりました。私はクレヨン王国シリーズを買っていましたが、今はどんなシリーズが流行っているのでしょうね。少し前は黒魔女さんやおかみさんやパスワードだったような・・・そのときどきで流行るシリーズは時代を映しているような気もしますね。閑話休題

前に読んだわ、という大人の方へ。講談社文庫から完全版が出ているようです。なんと、青い鳥文庫クレヨン王国の十二か月は収まりきらなかったのでページ数をかなり削ったのだとか。そこで、完全版として以下の本が出たようです。だるま食堂のあたりが文章が足されているとか。私は読んでいないのですが、もし興味があればどうぞ。



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