福永令三ークレヨン王国七つの森
第110冊目は、夏のキャンプで7人の少年少女が冒険し、それぞれ不思議な宿題を済ませてしまう物語「クレヨン王国七つの森」を紹介します。
最初にあのいやーな夏休みの宿題を先生が出すか、出さないかという場面から始まります。なんとも優しそうな女の先生は黒板に「梨」の絵を描くのです。おおー!この夏の宿題はなんと無し!何度この日を夢見たことでしょう。子どもたちは「夢よ、覚めないで!」と叫びます。
でも先生はニコニコして、「たった一つだけあります」といってプリントを配るのです。このプリントの中身がなんとも素晴らしいのです。ぜひ本で読んでください。嫌いなものを克服するというチャレンジを詩で書いてあるのです。
さて、主人公の自然観察クラブの7人は、観察レポート入賞記念に自然観察クラブ顧問の先生と夏のキャンプに行きます。自然観察クラブや顧問の先生は作者自身が塾の先生だったこともあって、とてもいきいきと描かれています。
肝試しの代わりにオリエンテーリングをすることになり、1人ずつ入っていった森の中で不思議な出来事に出合うのです。
最初に読んだときに印象的だなと思った話は、久子の話でした。久子はのろいのかかったフルートを唯1人吹くことができたのですが、それは姉を憎んでいる人しか音が出ないというフルートだったのです。
「あたしの姉は、あたしより頭がよいです。あたしよりよく勉強します。あたしよりもピアノがじょうずです。あたしよりもまじめです。・・・中略・・・そして、あたしより人にすかれます。あたしより両親にかわいがられます。−−−まだ、なにかあったかしら。そうだ、あたしより字がきれいです。」
よくある話なんですが、兄弟姉妹と比べられる、あるいは自分で比べてしまう立場になったとき、それをどう克服するか、本作の読みどころのひとつだと思います。
読み返してみると、お父さんとの関係を考え直すきっかけになる晶太郎の話が、七つの森全体のキーパートになっています。
お父さんが釣ってくる魚を食べないといけないのが嫌だなーという話なのですが、それを考え直す体験をして、晶太郎の見方が変わっていくのです。
夏のキャンプでの不思議な体験、それを裏付けるかのようなエンディングは見事です。子どもたちの宿題(嫌いなこと克服)だけでなく、森の中での問題も解決されたことがわかるからです。後味も良いさわやかな夏の物語です。
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