3回以上読んだ文庫本を紹介

3回以上読んで本棚に残した(売らなかった)上に、自炊して電子書籍化し、さらにもう1度電子データで読んだ文庫本を紹介します。

福永令三ークレヨン王国のパトロール隊長

第107冊目は、クレヨン王国シリーズで一番大人のあなたにおすすめしたい、男の子主人公の物語「クレヨン王国のパトロール隊長」を紹介します。

この本、最初のうちは何度読み返しても涙が止まらず、結末も過程もわかっているのにどうして自分は泣くのだろうと不思議でした。

クレヨン王国に迷い込むのは小学校5年生のノブオです。ノブオの持っている家庭環境や学校の先生との関係が非常に現実的で、現実のように残酷で考えさせられます。そして、身につまされるのです。

ノブオは担任の右田先生とそりがあいません。どうしてにくしみあってしまうのか自分でもわからないのです。

例えばこんなエピソードがあります。ノブオがカマキリの卵を100個とれるところを知っているよと言い、先生はそんなにとれないだろう、このうそつきというのです。ノブオは意地になって卵を100個集め、職員室に行って先生に見せるのです。でも、先生は自分の予想を裏切るこの結果に、いこじなところを直せ、卵はとったところへ返して来い、というのです。

ノブオには目の見えない妹がいます。妹が目が見えなくなったのは、自分が投げて遊んでいた帽子が風に飛ばされ、それを拾おうとして車にひかれたからです。妹は後妻の連れ子なのですが、そのせいで夫婦関係も気まずくなります。ノブオはそれを自分のせいだと思うのです。

後妻のおかあさんは姓名判断に凝るようになります。そして、漢字だったノブオの名前をカタカナに変えたいとおとうさんともめるのです。それをおさめたいため、家庭平和を守りたい一心でノブオはカタカナの名刺をつくって、テーブルにおきます。「これでいいんでしょう、おかあさん」

こうしたエピソードの数々がぐさぐさと胸にささるのです。
ノブオのこころには憎しみの青い筋が無数に通り、いまにもこころが飛び散りそうな状態です。そんな状態で、友達とけんかし、先生と言い争ったノブオはクレヨン王国に入り込みます。

クレヨン王国では、ノブオのこころの状態を知って、しばらくおいてやることにします。そのときノブオが選んだ役割がパトロール隊長だったのです。警察官のようなこの役目は、ノブオを成長させ、先生との関係、母親との関係、妹との関係を考えさせます。

春の野原に咲いた吾亦紅のエピソード、火の精と水の精との戦争を止めるエピソード、偶然あったかみさまネダマンネンが右田先生そっくりだったエピソード、入院した病院の看護師がもらい子を育てているエピソード。これらの綿密に計算されたエピソードが順に積み重なって、少しずつノブオが変わっていく様子が上手に描かれています。

このエピソードの密度と数が、この作品を大人が何度読んでもいいと思う素晴らしいものにしていると思います。本当におすすめの一冊です。



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