3回以上読んだ文庫本を紹介

3回以上読んで本棚に残した(売らなかった)上に、自炊して電子書籍化し、さらにもう1度電子データで読んだ文庫本を紹介します。

森鴎外ー森鴎外の『知恵袋』

第64冊目は、森鴎外箴言集、小堀桂一郎監修の「森鴎外の『知恵袋』」を紹介します。

この森鴎外の『知恵袋』という本、とてもよく監修・監訳されています。
森鴎外は、「智恵袋」「心頭語」「慧語」という3種の箴言集を書かれたそうです。うち、「心頭語」は「千八」名義で連載していたそうで、その中から鴎外が処世術上の箴言のみを抜き出して1冊にまとめた切抜帖があったそうです。なので、この本には鴎外自身が選定したという「心頭語」の部分のみがのっています。「慧語」の方は「痴人」の署名で連載していたそうです。
そして、「智恵袋」に関しては、ドイツの著作家クニッゲの「交際法」という本の抄訳ないしは翻案だろうということで、鴎外の知恵袋とクニッゲの交際法の両方の文章がのせてあります。
さらに、「慧語」に関して、原文がショーペンハウエルのドイツ語訳のものと推定され、ショーペンハウエルの原文訳ものせてあります。親切ですね。(わかりにくいので補足。原作者は西洋の箴言家Gracian。それをショーペンハウエルがドイツ語に訳した。そのドイツ語訳を鴎外が日本語に訳したのではないかと推測)

私は森鴎外の知恵袋の文章に出会ったのは、現代文・古文の模試でした。そのとき、えらくわかりやすい文章だなと思い、もっと読んでみたいと思って、この非常に分厚い本を買いました。

明治30年代に書かれた文章なので、近代古文にあたるのでしょうか。でも心配いりません。後ろに全部口語訳も載っていますので、鴎外の抄訳した処世術を読みたい人は後ろから読むとよいでしょう。

読み返して気に入った部分は、『44.初対面(初対面の心得)』です。

「なお特に学者のために一言注意しておきたいことがある。重要な対面等を控えている時は、少なくとも半日ほどは机上の仕事を休んでおいてから行くがよい。」

うーん、納得。原文では「少なくも半日間書を読まざれ」となっています。

そして、模試にもでた『6.独り負ふべき荷』は名文だと思います。

「憂あり禍あり又足らざることありて、汝が思慮の救ふこと能はず、汝が意思の排すること能はざるときは、決してそを人に告ぐること莫れ。親しき友も例外にあらず、妻子も例外にあらず。」

含蓄あふれる文章ですね。実際はこの後に、自分がおちぶれるとおちぶれたことをそしりにくさぐさの下客あらんと書いていて、実感こもる文章です。