幸田文ー草の花
第26冊目は、幸田文に戻って、幸田文の「草の花」を紹介します。
「草の花」はエッセイ集の中でも、特におすすめできる作品です。なぜかというと、お茶の水高等女学校落第から始まって、キリスト教の学校に入り、女学生特有のラブレター事件など学園ものの世界が広がって、読みやすいからです。そして、その文章には変に耽美な飾りはなく、あっさりとした読み口でありながら、深い観察にもとづいた人物描写が続きます。ここはいつもの幸田文です。
クラス全員で何となく気に食わない先生のテストに白紙答案を出そうと相談して、幸田文が迷いながらそうすると、他の人はちゃっかり回答して点をとっていたというところ、あるある、と思います。
そして、知らない女学生からもらうラブレター。友達になろうと書いてあるのですが、難しい文章でよくわからない、と友達に見せると、ばかねと言われます。ラブレターに使ってある紙がどこの何であるかもお見通しの友達。世界が広がる瞬間です。
継母とのエピソードも面白いです。裁縫をきれいに縫うコツは待ち針の間を狭く、きっちりと刺すこと。でも、途中で幸田文は面倒くさくなって、一気にずぶずぶとやってしまいます。案の定、着物はまがってしまいました。
「あんた泣くわね。泣く方がいいのよ。泣くと傲慢が直るから」はっとして、継母を見ると、ぼやっとした顔であちらを見ていたというエピソード。
継母が幸田文に関わろうとしてくれている様子、だけどそれがうまくかみ合わない様子、はっとして母への接し方が変わりそうだけれど、まだまだ噛み合わなさそうというところがうまく出ていると思います。
そして、唐突に『草の花』で描かれた回想は終わりを迎えます。ここの部分は池内 紀さんの解説が素晴らしいので、ぜひ読んでください。
その後は、小さな随筆が並んだ形になります。たくさんの随筆がありますが、私が読み返して印象に残ったのは、『きのうきょう』にある『かたぎ』です。
中学生たちが幸田露伴のことを聞きに来るのですが、みんな同じような質問だという話。いちばん多くていちばん返事のしようがないのが「一口に言って露伴の性格は?」だったそうです。何だか身につまされる話ですね。
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