3回以上読んだ文庫本を紹介

3回以上読んで本棚に残した(売らなかった)上に、自炊して電子書籍化し、さらにもう1度電子データで読んだ文庫本を紹介します。

安部公房ー箱男

第86冊目は、安部公房の奇妙な小説「箱男」を紹介します。

安部公房といえば、この「箱男」か「砂の女」が代表作として挙げられます。それくらい有名な本です。

奇妙な小説で、幾重にも見る見られるという構造が入っています。箱男は本当は誰なのか、読んでいるとだんだんわからなくなってきます。ところどころに挿入されている写真は作者が撮ったものです。

箱男の天敵はワッペン乞食です。箱男は段ボールの箱を頭からかぶって見られることを拒否した存在です。段ボールの箱をかぶることによって、匿名化したのです。その匿名化した箱にワッペンを貼りつけるワッペン乞食は、匿名を否定し、レッテルを貼り付けているのです。だから、箱男の天敵なのです。

近年のインターネットのやりとりにおいて、匿名か記名かの問題が度々論争されています。箱男でいたいか、ワッペン乞食になるか、あなたの態度はどちら?と問われているのかもしれません。

箱男の最後の方の文章は素晴らしいです。以下に引用します。

「じっさい箱というやつは、見掛けはまったく単純なただの直方体にすぎないが、いったん内側から眺めると、百の知恵の輪をつなぎ合わせたような迷路なのだ。もがけば、もがくほど、箱は体から生え出たもう一枚の外皮のように、その迷路に新しい節をつくって、ますます中の仕組みをもつれさせてしまう」