3回以上読んだ文庫本を紹介

3回以上読んで本棚に残した(売らなかった)上に、自炊して電子書籍化し、さらにもう1度電子データで読んだ文庫本を紹介します。

松浦暢ー英詩を愉しむ

第63冊目は、松浦暢のアンソロジー「英詩を愉しむ」を紹介します。

私は、ただ詩が読みたくってこの本を買ったのですが、改めて読み返してみると、いろんな仕掛けが入っていて素晴らしいです。平凡社ライブラリー、いい仕事してますねぇ。

英語で楽しむ詩集ということで、原文も訳文も両方載っています。
他の詩集と違うのは、1つ1つの詩に絵画、写真、版画、原稿写真のどれかがついていることです。これを「エクフラシス理論」というそうです。すなわち、視覚表現と言語表現との一致する芸術的表現をはかったそうです。これがいい味出しています。日本語で詩を読んで、思いを馳せながらページをめくると、そこに絵があります。ときには、作者の原稿写真があることも。こういう風に書かれたんだなあ、と世界が広がります。

私はこの詩集でロセッティとディッキンソンをはじめて知りました。いいなと思いました。

◆クリスティーナ・ロセッティの「かけ落ち」
「引き返そうよ、可愛いひと―――引き返そうよ、うそつきの早足のひと、
きみのゆく踏み固めた道は、どうやら 地獄への道らしい」
「だめよ、丘をのぼるにはけわしすぎるし、犠牲をはらうには遅すぎるわ
この下り道が楽よ、でも もう引き返す道はないの」

◆エミリー・ディッキンソンの「宝石を指に握りしめて」
宝石を指に握りしめて―――
わたしは 寝てしまった―――
その日は あたたかく、 吹く風は もの憂かった―――
わたしは つぶやいた 「ちゃんと宝石はあるのね。」

目をさまして―――わたしは馬鹿正直な指をしかった。
宝石は、なくなっていた―――
そしていま、わたしに残るものは
ただ、紫水晶アメシスト)いろの想いでだけ。

詩集の分類もよくできていると思います。
I.青春、憧れ、追憶、放浪
II.風、夢、夜明け、夕暮れ
III.愛の諸相―出会いと別れ
IV.人生、芸術、死、永世

贈り物にも・・・とすすめたいところですが、詩にそえられている絵のインパクトが強いので、人を選ぶかもしれません。
でも、装丁は作者がいうように美しく、コンパクトでおすすめですよ。