太宰治ー女生徒
第62冊目は、よくぞ選んだ短編の数々、太宰治の「女生徒」を紹介します。
女性の独白形式の短編のみを集めてみたという短編集。よくぞこの視点で集めたなと感心します。どの短編も非常によくできています。印象的な一節から始まり、読者を引き込んで離しません。
いくつか紹介すると・・・
『女生徒』
この短編が私は一番好きです。女性、特に思春期の女性のとりとめもなくいろいろなことを思う場面が繰り返されて、名文です。
ちょっと抜き出しただけでもこんな感じ。文章の調子がぱっときりかわっていくのがわかります。
「朝は、意地悪。朝は、自信がない。
眼鏡は、お化け。
泣いてみたくなった。
食堂で、ごはんを、ひとりでたべる。ことし、はじめて、キウリを食べる。
ほんとうに私は、どれが本当の自分だかわからない。
女は、自分の運命を決するのに、微笑一つでたくさんなのだ。おそろしい。」
終わりの文章も素敵です。特に、もうお目にかかりません、でわざわざ切るところが秀逸です。
「おやすみなさい。私は、王子さまのいないシンデレラ姫。あたし、東京の、どこにいるかごぞんじですか? もう、ふたたびお目にかかりません。」
『葉桜と魔笛』
病気になった妹と看病する姉の話です。病気になって青春がどんどんなくなって、男の人とつきあえばよかった、このまま死ぬのは口惜しいと思う妹に訪れた奇跡。
安心して読める素敵な話だと思います。
『皮膚と心』
吹き出物が体に広がっていって、死にたくなる話。お医者さんにいってみせるまでのはらはらジェットコースターのような気持ちの移り変わりがよく出ています。
『きりぎりす』
おわかれ致します、私は私のどこがいけないのかわからないの、という衝撃の出だしです。走れメロスも含めて、太宰は告白文で勢いよく書いた文章がよいですね。
『千代女』
「女はやっぱり駄目なものなのね、つくづく私は自分を駄目だと思います」って安定のうじうじ感です。
女性の気持ちを知りたいあなたにおすすめです。