幸田文ー雀の手帖
第60冊目は、私の持っている幸田文の文庫本18冊のうち、いよいよ残り2冊となったうちの1冊、幸田文の「雀の手帖」を紹介します。
幸田文いわく「ちゅんちゅん、ぺちゃくちゃと自分勝手なおしゃべりをした」100日分のエッセイ集です。
幸田文の文章は不思議で、ちょっと読むといいないいなと思い、もっと読みたいと欲が出るのです。その欲が出たところで、こうした短文のエッセイ集を一気読みすると、物足りなく感じてしまいます。だから、もっと文章を大事にして、一日に一つ二つ読むくらいがちょうどいいのでは?と思うことがあります。
そうはいっても読みだしたら、とまらないんですけどね。
ああ、そうそう!なんでかな?と思う『箱』。
「男の人はてんで箱なんかのことで気を動かされることはないようだが、女はどういうものか箱というと、え? とふりかえる傾きがある」
私も子どもの頃、箱も欲しいと親によくねだっていたのを思い出します。
そして、このエッセイ集は、エッセイの続き方が面白くなっています。次の日に前の日のことが微妙につながっていくのです。
『柿若葉』
「眼ざとい耳ざといということを言うが、・・・中略・・・そのとき心の動きが鋭敏であると、眼や耳が伴ってさとくなるのではないだろうか。・・・だいぶ略・・・小でまりの花がまっしろである」
『白い花』
「小でまりの花がまっしろだ。・・・だいぶ略・・・これでやっと、この花に済む気持になれた」
『配色』
「美智子妃殿下はアイヴォリー・ホワイトとかいう白色がお好きで、・・・だいぶ略・・・この場合の城は、むずかしい易しいを通りこして、配色難を救う色である」
『はな』
「すずらんの花が咲いてくれた。・・・だいぶ略・・・鼻盲か、鼻オンチか」
冒頭と終わりの文章だけ抜粋してみました。少しずつずれながら、次の日へ続く雰囲気がわかりますね。
以下の文章はいかにも幸田文だなと私が思うところです。
『かぜひき』
「風邪をひいた。なぜ、ひいたというのだろう。ひいたというと、誘う気があってひいたように聞こえるからおかしい。私はひく気など毛頭なかったのである」
こういうちゃきちゃきした文章が好きです。
★関連記事
【特集記事】幸田文の文庫本18冊紹介まとめ