3回以上読んだ文庫本を紹介

3回以上読んで本棚に残した(売らなかった)上に、自炊して電子書籍化し、さらにもう1度電子データで読んだ文庫本を紹介します。

カフカー変身

第48冊目は、あの有名で奇妙な小説、カフカの「変身」を紹介します。

有名な本なので、複数の出版社から出ていますが、私は新潮文庫をおすすめします。というのは、新潮文庫の本にはさまっている池内紀さんの『鑑賞のてびき』の文章が素晴らしいからです。今売っている本にはさまっているかどうかはわかりませんが、本屋にいって買う前に確かめてみてはいかがでしょうか。

さて、カフカの「変身」はとても奇妙な小説です。
以下、思いっきりネタバレします。






ネタバレ

主人公のグレーゴル・ザムザは、朝起きると自分が虫に変わってしまったことに気づきます。どうもダンゴ虫が巨大化したようなそんな虫です。けれども、本人は変身したことそのものには驚かないのです。いつも通りに会社にいかなくちゃ、セールスマンとしての仕事をしなくちゃ、とそういう感じなのです。

そして、家族も驚かないのです。これはグレーゴルの変身に対してであって、グレーゴルの姿=虫そのものに対しては気絶するくらい驚くのです。けれども、なぜ虫に変身してしまったかという謎は全員が目をつぶって考えないのです。なんとも奇妙です。

そして池内紀さんの鑑賞の手引きによると、「時間の変身」の物語でもあるそうです。改めて読み返すと確かにそうです。セールスマンの頃は朝4時起きのあわただしい生活でしたが、虫になってからは一日が長いのです。いつ起きたのか、いつ夜になったのかもわからない。ひきこもりにでもなったかのようです。もっともグレーゴルの場合は家族に閉じ込められているのですが。

さらに、池内紀さんの鑑賞の手引きはもうひとつの変身を指摘します。それは「家族の変身」です。父親はのらくらするのをやめて働きに出ます。母親は内職を始め、妹はバイオリン演奏家をあきらめて店員になるのです。

グレーゴルが死んでから、数か月ぶりに三人で外出する親子の様子は変化のクライマックスです。将来は明るいし、娘にもいいお婿さんを探してやらねばと両親は思うのでした。

幾通りもの変身が描かれ、交錯する世界。
読んだことのある人も、もう一度読んでみませんか?