3回以上読んだ文庫本を紹介

3回以上読んで本棚に残した(売らなかった)上に、自炊して電子書籍化し、さらにもう1度電子データで読んだ文庫本を紹介します。

向山貴彦ー童話物語

第25冊目は、胸が痛くなる冒険ファンタジー、向山貴彦の「童話物語」を紹介します。

この童話物語、一気に読ませる、続きがすごーく気になるだけの力を持ちながら、ちょっとだけ人には薦めにくい理由があります。
それは、物語の最初がとても悲惨だということ。その悲惨さに打ち勝って先を読み続ける強さが必要なのです。続きが気になる気持ちの方を大きくして、この敷居をぜひ乗り越えてください。

ネタバレ




以下、ネタバレです。
主人公の少女ペチカと妖精のフィツ、二人の関係は拒絶と誤解、憎しみと妬みから始まります。少女ペチカと少年ルージャンの関係もそうです。拒絶と憎しみ、いじめ。
少女ペチカはお母さんが死んでからいいことがありません。毎日いじめられ、死にそうにお腹がすいてもパンすら買えず、ゴミ箱から拾ったら、盗んだといわれる生活です。人のことなど構っていられないのです。「私のものを盗るな!」たき火の周りに暖を求めてきた子猫をじゃけんに追い払う場面が辛いです。

前半では、これでもかこれでもかと悲惨な描写、人間の醜さを作者が描いていきます。そこには容赦がありません。きれいな服をきてお腹がいっぱいだったら、やさしくだってできる、でも今はできないんだ、と徹底しています。

そして、ペチカは妖精伝説により、伝染病をもたらすと誤解され、牢にとらえられてしまいます。このままだと殺される、やっとのことで逃げ出すのですが・・・

後半はペチカとフィツ、ルージャンが心を少しずつ取り戻して旅をしていきます。でも、すぐに人が信じられるわけではなく、助けてくれたおばあさんを絶対人買いだと思うペチカ。花屋さんに雇ってもらっても、首になるとびくびくするペチカ。追ってくる守頭の影におびえ、何もかも忘れて逃げ出すペチカ。ルージャンにやっぱり許せない、と告げるペチカ。

そんなペチカがどうして変わっていけたのかというと、途中で助けてくれたおばあさんの無償の愛に出会ったからだと思います。
おばあさんはペチカが夢でうなされていたのを聞いて、ペチカの食べたいものオムレツを知ります。そして、それをつくってくれるのです。目が見えないのにおばあさんは妖精のフィツがいることも信じ、フィツの分までつくってくれるのです。
このとき、ペチカはオムレツを喜んで夢中で食べます。でもフィツにはせがまれてもあげません。するとおばあさんがフィツにフィツ用の小さなお皿を差し出すのです。
この後、ペチカとフィツの関係はよくなっていくのです。

童話物語は、ファンタジーでありながら、人間関係の奇跡が少ないのでリアリティがあります。人間同士の和解、妖精との触れ合いといった要素に容赦なく現実を入れているからです。素敵な出会いはなく、憎みあいと拒絶から始まる出会い。
一方、憎しみを食べて育つ黒い炎や、どんな忘れ物でも見つけてしまう忘れ物係などファンタジー要素もあります。でも、そうしたファンタジーの要素よりも、ずっと印象に残るのは骨太な人間関係、妖精関係、生き方の部分です。
悲惨なパートを乗り越えて、最後まで一気に読んで欲しいです。