3回以上読んだ文庫本を紹介

3回以上読んで本棚に残した(売らなかった)上に、自炊して電子書籍化し、さらにもう1度電子データで読んだ文庫本を紹介します。

デュ・モーリアーレベッカ

第139冊目は、デュ・モーリアのサスペンス小説「レベッカ」を紹介します。
レベッカ〈上〉 (新潮文庫)
レベッカ〈上〉 (新潮文庫)
レベッカ〈下〉 (新潮文庫)
レベッカ〈下〉 (新潮文庫)

上巻まではサスペンス、下巻の途中からミステリーになります。
前の本の表紙は赤と青でしたが、今の本の表紙の方が小説にあっていて、雰囲気が出ています。

内容は、結婚したばかりの幸せな若妻が主人公です。新婚旅行の後、お金持ちの夫の屋敷に行って暮らします。夫が出かけている間は、大きな屋敷の中を見て回ります。でも、その屋敷と使用人には前妻の影が色濃く残っていたのです・・・

上下巻にわかれていて結構長いので、最初に読んだときは途中でやめようかと思いました。前半が長いと感じられる方は、推理小説だと思って、とばしとばし後半までいき、それから読み返すといいかもしれません。

泉鏡花ー歌行燈・高野聖

第138冊目は、これも日本文学の名作、泉鏡花の「歌行燈・高野聖」を紹介します。
歌行燈・高野聖 (新潮文庫)
歌行燈・高野聖 (新潮文庫)

この本は泉鏡花の中・短編集で、表題の2作の他に、「女客」「国貞えがく」「売色鴨南蛮」が収録されています。

高野聖」はおそらく一番有名な話で、ちょっとしたホラーサスペンスです。山の中で出会った美しい女は何者なのでしょうか?夏の夜におすすめの一篇です。

そして、高野聖と双璧をなすといわれる「歌行燈」。こちらは中編です。落語のようによくある話ですが、テンポがよく、次の展開がどうなるのかと、ついつい先へ急いでしまいます。読み返しましたが、やはり表題の2作がおすすめです。

少しエロティックな泉鏡花の文章を楽しんでください。

三島由紀夫ー金閣寺

第137冊目も、日本文学の名作、三島由紀夫の「金閣寺」を紹介します。
金閣寺 (新潮文庫)
金閣寺 (新潮文庫)

ちょっと表紙のイラストが変わって、燃え上がる感じになりましたね。私が購入したときは、白地にオレンジ色で大きく題名と著者名が書いてあるという形式でした。


さて、この本は金閣寺への放火事件を題材にしたオリジナルストーリーの小説です。金閣寺の放火事件は実際にあったことですが、小説自体はフィクションになっています。

主人公と金閣寺をつないでいるのは父です。父が美しいと教えてくれた金閣寺、父の死後、主人公は金閣寺で徒弟になり、住職の修行をします。

父との美化された想い出とは対照的に、ある事件があって、主人公は母を許していません。母は現実的であり、父の死後、お寺を処分してしまい、主人公に金閣寺の跡取りになるよう促します。結局、すべてのストーリーは金閣に向かってつむがれていくのでした。

さて、金閣寺を読んでいるといくつか気になるエピソードが出てきます。

1つ目は女の裸です。友人鶴川とのやりとりの後、主人公は南禅寺で女を見ます。この後、女の腹を踏む事件、童貞喪失と続きます。

2つ目は、「南泉斬猫」という禅の考案のエピソードです。

「あの考案はね、あれは人の一生に、いろんな風に形を変えて、何度もあらわれるものなんだ。あれは気味の悪い考案だよ。」

そして、最後は、物語の後半で、亡くなった父の代わりとして会いに行く禅海和尚との会話が象徴的です。

「人の見ている私と、私の考えている私と、どちらが持続しているのでしょうか」
「どちらもすぐ途絶えるのじゃ。むりやり思い込んで持続させても、いつかは又途絶えるのじゃ。汽車が走っているあいだ、乗客は止まっておる。汽車が止ると、乗客はそこから歩きださねばならん。走るのも途絶え、休息も途絶える。死は最後の休息じゃそうなが、それだとて、いつまで続くか知れたものではない」

この後、私を見抜いてください、と主人公は言うのですが、和尚はからからと笑い、見抜く必要はない、みんなお前の面上にあらわれておる、と答えるのです。それを聞いて、主人公は自分を理解してもらったと感じ、安堵するのです。

主人公にとっての金閣の意味が変わり続けたように、人にとってのよりどころは変わり続けるものなのでしょうか。
真夏の眠れない夜の読書におすすめします。

川端康成ー雪国

第136冊目は、日本文学不朽の名作、川端康成の「雪国」を紹介します。
雪国 (新潮文庫 (か-1-1))
雪国 (新潮文庫 (か-1-1))

大人になってから読んだ方がいいと思う作品です。でないと、なぜこれが名作なのかさっぱりわからないでしょう。

主要なストーリーはあってないようなもの、です。「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」という大変有名な書き出しを楽しむように、景色や人となりを表すための小道具や、雪と紅葉という取り合わせを楽しむといいでしょう。

以下、盛大にネタバレします。



雪国には駒子と葉子という対照的な二人の女性が登場します。主人公(いわば語り部)の島村と関係があるのは駒子です。その流れからいくと、葉子はサブなのですが、蛾をつかんで泣きじゃくったり、島村と一緒に東京へ行くと言ったり、登場シーンにインパクトがあります。

駒子は、はりつめています。そのはりつめた生き方は三味線の音に現れます。駒子は日記をずっとつけているような女です。島村との関係もはっきりしていないので、悩んでいます。駒子は透明で純粋な風に描かれています。「蚕のように駒子も透明な体でここに住んでいるかと思われた。」

駒子が蚕なら葉子は蛾ということなのかもしれません。駒子と葉子の接点は最後の火事のシーンになるわけですが、どうしようもない島村と駒子の関係もこれで一区切りつくのかを暗示させて終わります。

で、物語の楽しみ方ですが、私は会話が好きです。おしばいにしたらさぞ映えるだろうなと思います。

駒子に島村が会うシーンで話すところ。

「君はあの時、ああ言ってたけれども、あれはやっぱり嘘だよ。そうでなければ、誰が年の暮にこんな寒いところへ来るものか。後でも笑やしなかったよ。」

駒子と島村のこころここにあらずな会話、に見せかけて、ふっと切り結ぶような会話。

「ねえ、あんた素直な人ね。なにか悲しいんでしょう。」
「木の上で子供が見てるよ。」
「分からないわ、東京の人は複雑で。あたりが騒々しいから、気が散るのね。」
「なにもかも散っちゃってるよ。」
「今に命まで散らすわよ。墓を見に行きましょうか。」
「そうだね。」

ぜひぜひどうぞ。

内田春菊ーファンダメンタル

第135冊目は、内田春菊の短編マンガ集「ファンダメンタル」を紹介します。

いつの頃からか、文庫本でもマンガが出るようになりました。
1冊だけで完結するし、短編集だし、読みやすいかと思って買った本です。

内田春菊の描く人物はたいていエロティックですが、その絵にエロスを感じるかどうかは人によると思います。

ストーリーは女性の側から描いたと思う話、女性でなければ書けないようなあざとい話、えげつない話、これでもかというくらい内面のひだを見せつけた話が多かったです。

で、読んでいて面白いかというと、面白いです。これってあるある、こんなのは空想上のおとぎ話だよねー、と両極端な話で楽しめます。
内田春菊の絵が好きな人に。

謎のギャラリーこわい部屋ー北村薫(編)

第134冊目は、北村薫によるアンソロジー「謎のギャラリーこわい部屋」を紹介します。

国内、国外を問わず、とっておきのこわい話を集めた短編集です。
乙一の「夏と花火と私の死体」や、南伸坊の「チャイナ・ファンタジー」を初めて読んだのはこの本です。

一番こわかったのは、ディーノ・プッツァーティの「待っていたのは」です。暑さと狂気で背筋が寒くなります。

暑い夏の夜に読むといいかもしれません。

渡辺淳一ーシネマティク恋愛論

第133冊目は、渡辺淳一の「シネマティク恋愛論」を紹介します。

渡辺淳一といえば、「失楽園」や「鈍感力」が有名なんでしょうか。恋愛もの(禁じられた恋、不倫の恋)に定評のある作家です。その作家が書いた恋愛映画の解説集です。

映画のあらすじとワンシーンを切り取った写真、そして、映画における男女の恋がどのようなものかが詳細に解説・分析してあります。
各映画についている表題がいいですよ。例えば、

愛の嵐・・・「肉体に刻みこまれた愛の深さ」
愛と哀しみの果て・・・「夫としてより恋人に向いた男」
ローマの休日・・・「夢であるが故に軽く爽やかな恋」
風と共に去りぬ・・・「ボタンのかけ違いで終わった恋」
情事・・・「愛の不毛の行きつく果て」
昼顔・・・「女性のなかに潜む娼婦願望」

のようにです。他にも有名な映画ばかり紹介されているので、自分が既にみた作品の解説を読むと楽しめます。そして、この本を読んだから、もう一度あの作品をじっくりみてみようと思ったりします。

この本、ちょっと人を選びますが、贈り物にもいいと思います。